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千葉地方裁判所 昭和55年(ワ)944号 判決

原告

松浦紀雄

(ほか九名)

以上原告ら訴訟代理人弁護士

高橋勲

(ほか五名)

被告

京成電鉄労働組合

右代表者執行委員長

高橋保

右訴訟代理人弁護士

藤田一伯

右当事者間の昭和五五年(ワ)第九四四号強制カンパ金返還請求事件につき、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

一  被告は原告各自に対し、金四八〇円および内金二六〇円に対する昭和五五年六月二六日以降、同内金二二〇円に対する昭和五五年七月二六日以降、各支払済みに至るまで、それぞれ年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  この判決は主文第一項につき、仮に執行することができる。

事実

(当事者の求める裁判)

原告

主文同旨の判決並びに主文第一項につき仮執行の宣言。

被告

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

(当事者の主張)

第一請求の原因

一  当事者

1 被告組合は、京成電鉄株式会社(以下単に会社という)の従業員をもって組織されている労働組合(組合員約五五〇〇名)であり、本部を肩書地(略)に有している。

組合の組織は、中央組織として本部があり、そのもとに職種別組織として、電車支部(約二三〇〇名)、自動車支部(約二七〇〇名)、本社支部(約五〇〇名)がある。さらに各支部のもとに職種ないし勤務地毎に分会が組織されている。

被告組合は、私鉄、民営バス、タクシー、ハイヤー、トラック関係の労働者をもって組織する企業別の労働組合および地域的交通労働組合協議会、連合体(単組)で組織されている日本私鉄労働組合総連合会(以下単に私鉄総連という)に加盟し、同時に、これに加盟する関東地方の単組で組織されている日本私鉄総連関東地方連合会(以下単に関東地連という)に所属し、更に千葉県内の私鉄、私鉄バス、タクシー、ハイヤー、トラック労働組合をもって組織されている千葉県私鉄労働組合連合会(以下単に県私鉄という)に加盟している。

県私鉄は、千葉県内で組織されている労働組合、産業別労働組合並びに地区協議体で組織されている千葉県労働組合連合協議会(以下単に県労連という)に加盟している。

2 原告らは、それぞれ左記入社年月日に京成電鉄株式会社に入社し、会社の自動車部船橋営業所に勤務し、バスの運転乗務に従事し、いずれも被告組合の組合員であり、被告組合自動車支部船橋分会に所属している者である。

(原告名) (入社年月日)

松浦紀雄 昭和四〇年六月七日

小倉正男 同四八年三月一二日

鈴木定男 同三九年一月二七日

富岡一郎 同四〇年三月二二日

松浦三郎 同四〇年七月五日

鎌田博英 同四一年四月一一日

東小川要 同四一年一〇月三日

中村等 同四一年一一月二八日

川村好春 同四九年二月一八日

鈴木勝廣 同四九年五月七日

二  選挙闘争資金としての臨時組合費の徴収

1 第一二回参院選闘争資金について

(一) 被告組合は、昭和五四年九月七日開催された本部第二〇回闘争委員会において、昭和五五年夏に予定されていた参議院選挙について、私鉄総連の方針にもとづき、日本社会党公認候補に予定されていた全国区阿具根登、地方区赤桐操(千葉県)外二名を当選させるため、組織をあげてたたかうという方針を決定した。

(二) 私鉄総連は、日本社会党公認候補全国区阿具根登ほか二名、地方区の同党公認候補者らを推せん候補者として決定し、昭和五五年四月一二日、第四回拡大中央委員会において、加盟労組より、「参議院選挙闘争臨時会費」として、組合員一人当り六〇円の割合による金員を徴収することを決定し、県労連は、地方区同党公認候補者赤桐操を推せん候補者として決定し、加盟労組より、「参議院選挙闘争臨時会費」として、組合員一人あたり二〇〇円の割合による金員を徴収する決定を行ない、県私鉄は、これを受け、同年三月一〇日の委員会において、加盟組合より、同臨時会費として、同様二〇〇円の割合による金員を徴収することを決定した。

(三) 被告組合は、昭和五五年五月二一日に行われた第一四回闘争委員会において、上記方針を具体化し、上記決定を受けて、右推せんにかかる候補者らの選挙闘争のための資金として、臨時組合費を被告組合員より、一人あたり、「私鉄総連参議院選挙闘争臨時会費」として金六〇円、「県労連参議院選挙闘争臨時会費」として金二〇〇円、合計金二六〇円を徴収することを決定した。

(四) 被告組合は、右決定にもとづき、昭和五五年六月二五日支給される六月分賃金から、組合員である原告らの同意を得ず、右二六〇円を各臨時組合費として徴収した。

右徴収は、被告組合と会社との間に締結されている所謂チェックオフ協定にもとづき、会社が被告組合からの要請を受けて、原告らの六月分賃金から各金二六〇円を控除し、これを被告組合に交付するという形でなされ、右組合費二六〇円は、昭和五五年五月三〇日公示の上記参議院議員選挙に際し、前記候補者への選挙運動資金として費消された。

2 衆議院選挙闘争資金について

(一) 被告組合は、昭和五五年五月二一日開催された本部第一四回闘争委員会において、同年六月に予定されている衆議院議員選挙について、上部団体である私鉄総連の方針にもとづき、社会党公認候補のうち埼玉四区板川正吾、島根全県区吉原米治を「組織内候補者」として、千葉一区乃至四区、東京六区、一〇区、茨城一区の選挙区からの立候補者を「組織外候補者」として推せんすることを決定した。

(二) 私鉄総連は、前項と同様の候補者を推せんすることを決定し、昭和五五年六月一〇日、一一日の第五回中央委員会において、加盟組合より「衆議院選挙闘争臨時会費」として、組合員一人あたり二二〇円の割合による金負を徴収することを決定した。

(三) 被告組合は、昭和五五年六月二四日の第一六回闘争委員会において、上記決定を受けて、同年六月二日公示の上記衆議院議員選挙における埼玉県四区、板川正吾、外七名の社会党公認候補者への選挙運動資金として、各組合員より、一人あたり金二二〇円を同年七月分賃金から徴収することを決定した。

(四) 被告組合は、右決定にもとづき、同年七月二五日支給される賃金から、前記参議院議員選挙闘争資金徴収と同様にチェック・オフの形で原告らから各金二二〇円を徴収し、右臨時組合費は、右社会党公認候補者らの選挙運動資金として費消された。

三  本件臨時組合費の徴収は違法である。

1 原告らは被告組合に対し、社会党公認候補者への選挙闘争資金として、前述の二六〇円および金二二〇円、合計四八〇円の納入につき、何ら納入すべき法律上の義務を有するものではないにもかかわらず、被告組合は、これを原告らの意思に反して一律に徴収し、これによって原告らは同額の損失を受けた。

2 本来、労働組合は、労働者の労働条件の維持・改善・及び政治・経済・社会的地位の向上を目的とし、労働者の思想・信条・支持政党のいかんを問わず、組織された労働者の自発的自主的な大衆的組織であり、同一の政治的信条を有し、その実現のために組織されている政党・政治団体とは本質的に異なる性格を有しているものであり、組合費ということで組合員全員を一律に拘束し、納入を義務づけることができるのは、労働組合の性格・目的に合致したものでなければならない。

ゆえに、特定政党の候補者への選挙運動資金の納入を、組合員に一律に義務づけることは、前記労働組合の目的と性格に反し、許されない。

3 また、組合員各自は、国民として思想・信条の自由、政党支持の自由、政治活動の自由を有しており、これは憲法上保障された基本的人権であり、労働組合といえどもこの権利を奪うことは許されない。

公職の選挙において、どの政党、どの候補者を支持するか、どの政党のどの候補者のために選挙運動資金を拠出するかは、右基本的人権にかかわる問題であり、何人もこれを強制できない。

本件計金四八〇円の徴収金は、いずれも日本社会党公認候補者の選挙運動のための資金であるから、その選挙運動のための資金の拠出は、いうまでもなくその支持の表示である。もちろん、その支持者が任意に協力し募金することは自由であるが、思想・信条・政党支持を異にする組合員から強制的に徴収することは、特定政党又は特定候補者への支持の強制であり、組合員の思想・信条の自由、政党支持の自由を侵害することであり、憲法に違反するというべきである。

4 したがって、前記経過で前記参議院議員選挙及び衆議院議員選挙において、日本社会党公認候補者のために費消すべき選挙運動資金を、組合員各自の承諾なくして徴収したことは違法である。

5 原告らは前記選挙運動資金の徴収方針が具体化された以降、徴収は任意とすべきである旨の意思を明示し、参議院議員選挙運動資金二六〇円については、昭和五五年六月九日付書面をもって、衆議院議員選挙運動資金二二〇円については昭和五五年七月一四日付書面をもってそれぞれ納入する意思のないこと及び控除しないよう被告組合及び会社に対して申し入れた。

しかしながら、被告組合はこれを拒否し、前述のとおりこれを徴収し、むしろ原告らの右申し入れの行動について不当に批判し、徴収された後の原告らの返還要求についても拒否し今日にいたっているものである。

四  結論

よって原告らは、被告組合に対し、民法第七〇三条にもとづき、各金四八〇円の返還及び内金二六〇円に対する徴収された日の翌日である昭和五五年六月二六日以降、内金二二〇円に対する徴収された日の翌日である昭和五五年七月二六日以降各支払済みまで、それぞれ民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

第二答弁

一  請求原因一の事実は認める。

二  同二の1の(一)、(二)の事実は認め、(三)、(四)の事実中、主張の金員が、主張の候補者らの選挙闘争のための資金として、原告らの同意を得ずに徴収され、右臨時組合費が主張の参議院選挙に際し、日本社会党公認候補者への選挙運動資金として費消されたことは否認し、その余は認める。

三  同二の2の(一)、(二)事実は認め、(三)、(四)の事実中、主張の社会党公認候補者への運動資金として主張の金員が徴収され、右金員が右社会党候補者らの選挙運動資金として費消されたことは否認するが、その余は認める。

四  同三は争う。

五  同四は争う。

第三被告の主張

一  被告組合の組織

京成電鉄の会社員で構成されている被告組合には、この組合規約の定めるところにより、次の機関、組織が置かれている。

1 まず組合の機関としては、大会、委員会、執行委員会があり、委員会は、委員(組合員六〇名につき一名の割合)により構成されている。

また、闘争委員会という機関があり、これは「大会が必要と認めたときは闘争機関を設ける」という規定(組合規約第八条)と右組合の闘争機関運営規則に基づくものであり、これは通常委員会といわれているものが、闘争期間中に闘争委員会という別称で呼ばれるものである。

2 次に組合の組織であるが、これには本部、支部、分会があり、原告らの所属する自動車支部船橋分会と各機関との関係は、右分会において選挙により選出された六名の委員(うち一名は分会長)を、闘争委員会(現在一〇一名)に送っている。

二  組合費(臨時組合費)の徴収手続

1 私鉄総連規約によれば、単組及びその組合員の義務として「会費、臨時会費を納入すること」(規約第六八条三項)、「加盟を承認された単組は、……臨時会費は加盟の日付以後に決議されたものについて納入義務を負う」(同第二〇条三項)と規定し、更に同規約は「……中央委員会で必要と認めたときは、臨時に会費を徴収することができる」(同第七〇条)として、中央委員会に臨時会費徴収の決定権限あることを明確にしている。

2 次に県労連、県私鉄関係については、県労連規約には、「県労連に加盟する組合は、……決議、協議事項を遵守しなければならない」(規約第六条)、「会費は別に定める額に従って、各加盟組合毎に月々納入しなければならない」と(同第二三条二項)、また県私鉄規約には、「臨時に会費を徴収するときは委員会の議を経て徴収する」(規約第二〇条三項)、「委員会は、……臨時納付金の徴収……を処理執行し……」(同第一一条)として委員会にその徴収決定権限あることを定めている。

3 被告組合規約は、「組合員は平等に次の義務を有する」(規約第六七条)として、その(一)号に「規約、綱領に従うこと」、同(二)号に「組合費を納入すること」、同(四)号に「機関の決定に従うこと」を、また臨時組合費の徴収については「臨時に組合費を徴収するときは、委員会の議を経なければならない」(同第七四条三項)と規定している。

三  被告組合の臨時組合費徴収権行使の正当性

1 被告組合において、本件臨時組合費が徴収されるに至ったのは、原告主張のとおり組合の正式機関である闘争委員会の議決によるものである。

即ち、本件臨時組合費の徴収は上記二3により「委員会の議」を経て、被告組合の組合員に対する本件臨時組合費の徴収権限が発生し、同時に組合員の被告組合に対する本件臨時組合費の支払義務が発生した。

2 また、被告組合が加盟する上部団体である私鉄総連、県私鉄は、原告主張のとおり、傘下組合より臨時会費を徴収することを各々の委員会の議を経て決定し、上記二1、2により、私鉄総連及び県私鉄の被告組合に対する、県労連は県私鉄に対する本件臨時会費の徴収権限が各々発生し、同時に被告組合の各上部団体に対する本件臨時会費の納入義務が各々発生したものである。

3 以上により、被告組合は、(一)参議院選挙闘争臨時会費として、私鉄総連に対して二五万八、〇〇〇円(六〇円×四、三〇〇名同総連に対する登録人数)、県私鉄に対して六四万円(二〇〇円×三、二〇〇名県私鉄に対する登録人数)を各支払う義務が、当然に発生し、(二)衆議院選挙闘争臨時会費として、私鉄総連に対して九四万六、〇〇〇円(二二〇円×四、三〇〇名同総連に対する登録人数)を支払う義務が、当然に発生し、被告組合は、(一)につき昭和五五年四月二五日関東地連に、同年五月二七日県私鉄に、(二)につき昭和五五年六月一八日に関東地連に、それぞれ被告組合の債務として、通常会計の中から支払われ、私鉄総連に対しては、右関東地連より、県労連に対しては右県私鉄より、各支払われたものである。

4 被告組合は、上記のとおり、通常会計より上部団体に対する臨時会費を支払ったため、組合運営費に不足を生じ、これを補填するため、組合規約にもとづき、各組合員より、本件臨時組合費を徴収することとなり、昭和五五年六月二五日支給の賃金より、上記(一)のうち「私鉄総連参議院選挙闘争臨時会費」としての名目のもとに、組合員一人あたり六〇円、(六〇円×五、四九一名)、計三二万九、四六〇円、県労連同臨時会費として、組合員一人あたり二〇〇円(二〇〇円×五、四九一名)、計一〇九万八、二〇〇円を、昭和五五年七月二五日支給の賃金より、(二)の「私鉄総連衆議院選挙闘争臨時会費」としての名目のもとに、組合員一人あたり二二〇円(二二〇円×五、四七八名)、計一二〇万五、一六〇円の徴収を行い、これをもって通常会計を補填したものであり、右金員は選挙のため支出されていないし、上部団体へ支払った会費を補填した残余も七八万八、二〇〇円が残存している。

5 以上のとおり、被告組合の右臨時組合費の徴収は、組合規約に従った決議による正当な徴収権限の行使であり、特定政党や特定候補者の選挙資金とするために徴収されたものではなく、又その趣旨のため使用されたものでもなく、民法第七〇三条の「法律上の原因」にもとづくものであって、不当利得とはならない。

第四被告の主張に対する答弁

一  被告の主張一、二は認める。

但し二の1のうち臨時組合費を納入する義務を負うのは単組である。

二  同三の1、2のうち、主張の徴収権限及び支払義務の発生したことは争う。

三  同三の3のうち、参議院、衆議院選挙闘争臨時会費が一人あたり主張の金員であることは認めるが、その支払総額は知らず、その余は争う。

四  同4のうち、被告組合が、各主張の日、主張の一人あたりの金員を臨時組合費として徴収したことは認めるが、その余は争う。

いずれも上部団体決定の選挙闘争資金として徴収したものである。

五  同5は否認する。

(証拠)(略)

理由

一  請求原因一の事実及び同二の1(一)、(二)の事実、同二の2(一)、(二)の事実は、当事者間に争いがない。

二  請求原因二1の(三)、(四)の事実中、被告組合は、昭和五五年五月二一日、第一四回闘争委員会において、加盟上部団体の決定による「私鉄総連参議院選挙闘争臨時会費」名目による六〇円、「県労連参議院選挙闘争臨時会費」名目による二〇〇円、合計二六〇円を、臨時組合費として、組合員各自より徴収することを決定し、右決定により、昭和五五年六月二五日支給される各組合員の六月分賃金から、チェック・オフ協定により控除された上記二六〇円を会社から交付を受け、これを徴収したことは当事者間に争いがない。

三  請求原因二2の(三)、(四)の事実中、被告組合は、昭和五五年六月二四日、第一六回闘争委員会において「衆議院選挙闘争臨時会費」名目による二二〇円を、臨時組合費として、各組合員より徴収することを決定し、右決定により、同年七月二五日支給される各組合員の賃金からチェック・オフにより、被告組合が徴収したことは当事者間に争いがない。

四  私鉄総連及び県労連、県私鉄の参議院、衆議院選挙闘争臨時会費の徴収は、昭和五五年六月二二日行われた右各選挙における右団体の推せんする上記特定の日本社会党公認候補の当選を得させるため、その選挙活動に使用する資金として、徴収を決定したことは、その付された名称からも、(証拠略)によっても明白である。

五  (証拠略)によれば、私鉄総連は、同会の綱領、規約、主張に賛同する単組を連合して組織し、同会の組織として、本部、地方連合会、単組があり、被告組合はその一単組として、関東地連及び私鉄総連を構成しているものであり(同会規約五条、六条、一九条)、同規約には、加盟を承認された単組は、当月の会費、加盟以後に決議された臨時会費を支払う義務があり(同二〇条)、単組が、会費、臨時会費を滞納したときは除名等の懲罰(二三条)が規定されている。一方、同規約には、単組及びその組合員の義務として、会費、臨時会費を納入すること(六八条)、会の経費は会費等でまかなう(六九条)、会費は組合員から毎月徴収するものとし(その額は年度予算で決定)、中央委員会で必要と認めたときは、臨時に会費を徴収することができる旨を規定している。

以上の規約によれば、加盟単組が臨時組合費を納入すべき義務があるほか、単組の組合員もその義務があると解されるが、(証拠略)をも総合すれば、被告組合は、各組合員より徴収した組合費等による組合会計のうち、一般会計から、私鉄総連会費を一括して毎月関東地連を通じて私鉄総連本部に支払っているものであり、同総連が、単組を構成組織としている関係上、各単組がその支払を行っており、組合員各自は、単組に右会費を納入するが、直接本部に会費を納入しているものではないことが認められる。

(証拠略)(県労連規約)によれば、県労連の経費は、会費等をもってあて、会費は別に定める額に従って、各加盟組合毎に月々納入する(二三条)と定めるほか、臨時会費についての規定はないが、上記のとおりの金員の徴収を決定したことは当事者間に争いがなく、(証拠略)(県私鉄規約)によれば、県私鉄の経費は、会費等であて(一九条)、会費(組合員数に応じて各組合の会費が定められている)、団体加盟費は、毎月末まで本部に納入する、臨時に会費を徴収するときは委員会の議を経て徴収する(二〇条)旨が規定され、会費は、いずれも各加盟組合毎に納入することとなっていることが認められる。

以上によれば、私鉄総連、県私鉄は、いずれも右臨時組合費徴収の規約に則り、上記臨時組合費の徴収を決定したものということができる。

六  (証拠略)によれば、被告組合は、私鉄総連、県私鉄の加盟組合として、上記規約に従い、私鉄総連に対し、昭和五五年四月二五日右参議院臨時会費として六〇円に登録人員数四、三〇〇名を乗じた金員を、同年六月一八日右衆議院臨時会費として二二〇円に同様四、三〇〇名を乗じた金員を、県労連に対し、同年五月二七日県私鉄を通じて右参議院臨時会費として二〇〇円に登録人員数三、二〇〇名を乗じた金員を、それぞれ一般会計から支払ったことが認められる。

七  (証拠略)(被告組合規約)によれば、被告組合は、京成電鉄株式会社の会社員(一定の者を除く)で構成し(四条)、組合員は組合費を納入する義務を負い(六七条)、組合の経費は組合費でまかない(七二条)、組合費は毎月末組合会計に納入し、臨時に組合費を徴収するときは、委員会の議を経なければならない(七四条)旨を規定し、(証拠略)によれば、上記昭和五五年五月二一日、同年六月二五日の各闘争委員会において、上記認定の私鉄総連、県労連、県私鉄の決定した日本社会党公認候補の選挙運動資金とするための「私鉄総連参議院選挙闘争臨時会費」六〇円及び「県労連同会費」二〇〇円と、私鉄総連の決定した衆議院選挙闘争臨時会費二二〇円を、被告組合の規約に従って、被告組合を構成する各組合員より臨時組合費として徴収することを決定(上部団体で臨時会費の徴収を決定したものについては、被告組合においては、審議事項とはせず、慣習上、承認事項として取扱っており、本件臨時組合費も、同様、承認事項として承認された)したことが認められ、右決定に基づき、各組合員より上記二、三項のとおり、その金額をそれぞれ徴収したことが認められる。

八  被告は、被告組合が臨時に上部団体に納入した会費の補填のため、本件臨時会費を徴収して組合経費を補充したものであり、選挙のための資金ではない旨を主張している。

前記四項認定のとおり、私鉄総連、県労連(県私鉄)の臨時会費は、特定政党の特定候補の選挙運動のための資金であり、被告組合もその決定に従って、同目的のため会費を納入したものであり、もともと私鉄総連に対しては、上記のとおり、単組組合員も臨時会費を単組を通じて支払う義務があるから、被告組合は、右納入金にあてる金員の現実の徴収は、被告組合自体としての手続を経なければならないため、これを後日として、取り敢えず私鉄総連が決定した当月の会費納入期日に同金員を組合として支払を完了したものであり、右納入金の補充のためにその後の徴収手続が行われたとしても、これが上記選挙運動資金捻出のための臨時の金員の徴収であることには変りはない。

又、県私鉄を通じての県労連への納入については、上記のとおり、被告組合は、昭和五五年五月二一日行われた闘争委員会において、同様、特定候補の選挙運動資金とするための会費として上部団体に臨時会費を納入することとなったその資金捻出のため、被告組合員より翌月二五日、同趣旨の金員を臨時組合費として徴収することを決定し、折柄選挙活動のさ中であることも加わり、現実の組合員からの徴収をまたず、同年五月二七日、現存する組合会計中からその支払を行ったものであって、これも上記同様、特定候補の選挙運動資金として徴収されたものといわざるを得ない。

又、被告組合が、私鉄総連、県労連に支払った総額が組合員から徴収した臨時組合費総額より少なく、残余七八万八、八二〇円が被告組合に残存したとしても、これは私鉄総連、県私鉄への組合員の登録人員数の相違から生じたものであって、選挙運動資金としての組合費の徴収であることに変りはない。

九  被告組合は、従業員の団体交渉権の確保、生活権の擁護伸長、地位の向上、労働条件の維持向上、福利の増進等を目的とする団体であり(規約三条)、本来、労働者の生活利益の擁護と社会的、経済的、福祉的な地位の向上は、社会的、経済的な機構制度、政策と密接な関連をもち、その根幹としての政治により影響を受けるものであるから、これをより良いものとするため、組合として政治活動を行うことは許されるものと解され、参、衆議院の選挙にあたり、特定政党、特定候補者を組合が推せん支持し、そのための選挙活動を行うことも、その目的上否定できないが、もともと組合員各自は、組合員としての地位とは別個に一人の国民として、それぞれの思想、信条の自由をもち、いずれの政党、候補者を支持し投票するかは、各人が自由に決すべき事柄であって、これは憲法上保障された基本的人権であり、組合がこれら特定候補者を当選させるための選挙運動資金の拠出を、組合員に一律に義務付けることは、同様個人の政治的信条の自由に対する侵害として許されない。

本件臨時組合費は、いずれも上記認定のとおり、日本社会党の特定候補の選挙運動資金として徴収されたものであるから、右徴収は法律上無効である。

一〇  (証拠略)によれば、原告らは上記各臨時組合費の徴収は特定政党への強制カンパであり、これを徴収することは基本的人権に反するとして、昭和五五年六月九日(参議院選挙について)及び同年七月中(衆議院選挙について)、それぞれチェック・オフを予定されていた同年六月二五日(参議院)、同年七月二五日(衆議院)選挙の同徴収に反対する旨の申入れを行っていたものであり、被告は、これを了知し乍ら、上記認定のとおり、同年六月二五日に二六〇円を、同年七月二五日に二二〇円を、各徴収したものであり、右各金員を法律上の原因にもとづかないことを知り乍ら取得したものというべく、これにより原告に同額の損失を与えたものであって、不当利得といわざるを得ない。

一一  よって、被告は原告各自に対し、金四八〇円と、うち金二六〇円に対する昭和五五年六月二六日以降、うち金二二〇円に対する同年七月二六日以降、各完済に至るまで民法所定年五分の割合の利息を返還する義務があり、右支払を求める原告らの本訴請求は正当であるから認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 大内淑子)

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